2018年を代表するパンチライン
- 杉山慧
- 2018年12月20日
- 読了時間: 4分

VAVA / VIRTUAL LUV feat. tofubeats
2018年を代表するパンチラインとしてBAD HOP「Kawasaki Drift」の「川崎で有名になりたきゃ人殺すかラッパーになるか」が話題を集めました。
昨年末に出版された磯部涼著『ルポ 川崎』などにも書かれていますが、川崎市が抱えるヤクザ、ドラッグ、売春、貧困、人種差別など現代日本の抱える問題点が表面化している土地で生まれ育った者としてのドキュメントがこの言葉には表れていると思います。私は今年からアニメを本格的に見るようになりました。その中で見たアニメ「魔法少女まどか☆マギカ」(2011)に彼らと共通する問題意識を感じました。印象的なシーンとして劇中に何度も出てくる京浜工業地帯を思わせる描写は、そういったことの表れだったのではないかと思います。ということは、極論空手風に言えば、BAD HOPはまどか☆マギカである、ということは、BAD HOPは魔法少女ということになりますね。
そんな「Kawasaki Drift」と肩を並べるパンチラインが
VAVA「Virtual Luv (feat. tofubeats)」の
“ときメモみたいに甘い、時なんて一度もない”
だろう。
この楽曲はバーチャル(仮想・夢想も含まれる)の愛がテーマとなっている。
仮想と言えば、私がアニメにハマるきっかけにもなった、1月に遅ればせながら見た「劇場版ソードアート・オンライン-オーディナル・スケール-」(以下SAO)だった。VR(仮想現実)とAR(拡張現実)の近未来を予見させてくれるこのアニメは、観光地にARの技術が導入されたら、遺跡に行った時当時の人々の生活が目の前に現われたりとても示唆的な内容でした。バーチャルな技術が我々の感覚や繋がりを大きく変えるだろうなと思わせてくれるものでした。近所のショッピングモールにVRの体験ブースができたことやVRゴーグルもお手頃の価格になったこと、バイノーラル録音によるASMRなど技術の進化が徐々にSAO的世界観は近づいてきているように思います。
tofubeatsが声をかけた関西在住のミュージシャンで劇伴が制作されたテレビ東京系列で放映された『電影少女 VIDEO GIRL AI 2018』もテレビから女の子が出てくるというバーチャルと我々が今の感覚で思っている現実世界を交差させる題材になっていた。さらに天野あいという名前が表すようにAIとも捉えることができ、現代の技術であるAR、VR、AIが多層的にミックスされた近未来を提示しているようで面白かったです。天野あい役をした乃木坂46西野七瀬とtofubeatsのコラボ曲「ふめつのこころ」はリリースされることはありませんでしたが、サントラを通して聴いた時に、ドラマの中で起こったバーチャルなフィクションが消える方が、後味がいいなと思えてきました。
話がそれてしまいましたが、この曲で歌われているライムは、バーチャルという言葉を挟むことで多層的な意味が付与されているように聴こえてくる。
ここで歌われていることは、恋は盲目を言い換えているようにも聴こえてくるし、自身の中で夢想する思考を相手に押し付けや良く見せようとする偽りの自分を演じているようにも、手の届かない存在やゲームに対して夢想しているようにも聴こえてくる。というバーチャルという言葉があることで様々に解釈の余地を残し想像力を刺激するライムになっている。
シミュレーションゲームをモチーフにした
“いつでも頭の中では選択肢外さないのに” by tofubeats
それを受けてVAVAから飛び出たパンチラインが
“ときメモみたいに甘い、時なんて一度もない” by VAVA
現実と仮想、夢想、理想は違うんだと言わんばかりのこのフレーズ、自身の願望の押し付けなど文脈によりこのパンチラインが見せる様々な顔(ペルソナ)は、恋愛におけるバーチャル(仮想、理想、夢想)な感覚を端的に表した一節だ。
さらに、この曲には、ビートジャックならぬ、tofubeatsによるセルフ・ライム・ジャックがされている。
“ふめつのこころは LOVE LOVE LOVE 日本語で言ったら愛” by tofubeats
電影少女の主題歌「ふめつのこころ」のサビ部分をそのままもってきており、日本語で言ったら愛(アーイ)は、今年ヒプノシクマイクで再び注目を集めたアーイ(Allright)の言い換えをしている。さらに関西のレジェンドやしきたかじん伝説のパンチライン“やっぱ好きゃねん”を思わせる“めちゃ好きやねん”とライムすることで関西感を出すなど、“LOVE”の言い換えが多層的になっていて面白い。
BAD HOP「Kawasaki Drift」は、格差の広がりや人権を無視した労働により維持されている日本の低価格社会の歪みをヒップホップにおけるギャングスタ・マナーで提示するという意味で2018年らしい一曲だったと思います。VAVA「Virtual Luv(feat. tofubeats)」は技術の進展で現実的になってきつつあるバーチャル世界と現実世界のクロスオーバーをテーマにしつつ、人の思考の中にある理想や夢想や思い込みといったものまでにも考えを巡らさせるという意味で、とても2018年的な楽曲と言えるのではないでしょうか。
Virtual Luvのプレイリストを作ったのでよかったら聴いてみてください。
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