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パソコン音楽クラブ『Night Flow』はアニメ『SSSS.GRIDMAN』の裏サントラなのではないか。

  • 杉山慧
  • 2019年10月13日
  • 読了時間: 4分

 最近、90年代によく出会います。もちろんタイムスリップしている訳ではありません。何の話をしているかというと、アニメの話。90年代のアニメを見ているのではなく、いま放映されているアニメの中に90年代が香ってくるのです。例えば90年代アーケード・ゲームや家庭用ゲーム機のカルチャーを題材にした『ハイスコア・ガール』や円谷プロの特撮ドラマ『電光超人グリッドマン』(93~94年放映)の原作を現代に置き換えてアニメ化した『SSSS.GRIDMAN』(以下『グリッドマン』)などです。なぜこんな話をしているかというと、80~90年代の音源モジュールを鳴らすパソコン音楽クラブのサウンドが、これらの作品と共通する所を感じるからです。とくに本稿で取り上げる『Night Flow』は、『グリッドマン』の裏サウンドトラックではないかと思っています。

 まずパソコン音楽クラブについて簡単に説明すると、柴田と西山の2人による音楽制作を軸にした部活動型クリエイティヴ集団。西野七瀬主演ドラマ『電影少女 -VIDEO GIRL AI 2018-』の劇伴が最も知られた作品ではないでしょうか。tofubeatsの声掛けにより関西在住のトラックメイカーが招集されたこのサントラに5曲を提供。彼らの音楽的特徴は、80~90年代の機材という縛りの中で現代的なポップソングを作ることです。そこにリスナーは懐かしさと新奇性を見出すのか、ライブには若者に交じり人生の先輩方の姿も見受けられます。架空の神戸を題材にしたdj newtown(『Dream Walk』リリースパーティー大阪では、パソコン音楽クラブと共演)やTsudio Studioのここではないどこかという感覚と、アプローチは違うが共通する部分があるのではないでしょうか。

 『Night Flow』は、『グリッドマン』の裏サウンドトラックであるという本旨に入るためにアニメ版のあらすじを簡単に説明します。街を襲ってくる怪獣から、記憶喪失になった少年(響 裕太)が古びたパソコンと同期することでヒーロー(グリッドマン)へと変身してグリッドマン同盟の仲間(宝多六花、内海 将)と一緒に怪獣から街を救うという話。オープニングのOxT「UNION」に象徴されるように基本的にはヒーローものアニメの体裁を取っているが、街を壊す怪獣を一人部屋で作っている新条アカネの心情表現が物語の原動力になっていること。その新条アカネと宝多六花は、同一人物(オルターエゴ)だと解釈できるシーンが多くあること。そして、物語の最後のシーンでは実写映像で長い髪の女の子がベッドから目覚めるシーンは、この物語が宝多六花/新条アカネの夢の中の話というある種のメタ構造を思わせること。これらを踏まえると、このアニメはひとりの少女が外面を気にして押し殺していた感情に、夢の中で向き合うことにより再び自分を肯定する物語と私は解釈しました。

 『グリッドマン』をこのように解釈した場合、『Night Flow』と多くの共通点が見えてきます。パソコン音楽クラブは80~90年代の音源機材を使っているため、ライブでも総重量11キロにもなる機材を運んでいるそうです、それは『グリッドマン』第5話に旅行先に怪獣が現れたため、ブラウン管のモニターを含むPCと対面しなければ変身できないため旅行先まで持っていく場面とどこか似ています。「reiji no machi」のMVには、都会の街並みにも関わらず主人公の女性以外、一人も映らない。その映像の浮世離れした街並みは夢の中を歩いているようです。これは『グリッドマン』の彼らの住む街以外が存在しないという世界観とリンクしていると思います。夢の中へと入りこんでいくように街をさまよう「Yukue」や夢から醒めることを歌うアルバム最後の「hikari vo.長谷川白紙」の流れは、本作と『グリッドマン』が同じメタ構造を持っていると解釈できます。それだけでなく、ラストを除いた8曲は自分の内面と向き合うように、一定の温度感で進んでいく。それは夜の街並みを音楽として切り取りたいというテーマを表現しているだけでなく、『グリッドマン』新条アカネのポツンとした心情表現とリンクしているようにも思えてきます。「reiji no machi」の歌詞は、書き下ろされたのではないかと思えるほど。そして、ラスト「hikari」のポジティブなメロディーが体現するこれからの自分への期待感と希望、変化への不安。自分の中で折り合いが付け、前へと進むことに希望を持てる感覚は、『グリッドマン』のラストとも共通するのではないでしょうか。

 このようにこじつけた私の思考は、『Night Flow』は新条アカネの心情を描写したサウンドトラックなのではないかと結論づけました。そして、鷺巣詩郎による『SSSS.GRIDMAN』オリジナルサウンドトラックに収録の「HumanLove」など90年代のドラマのアニメ化を意識してなのかピコピコした電子音が所々に使われている。それはパソコン音楽クラブと同じような雰囲気をまとっており、この2作品の共振性をより感じさせます。このような解釈を可能にさせるのもパソコン音楽クラブ『Night Flow』が描いた夜の街並みが持つ違和感にあるのだと思います。30年前の機材を使っていまの音楽を作ることで、彼らの創造した街並みには30年前の建物が真新しい建物として現代に立ち現れてくる感覚がある。それもこれも彼らが昔の機材を用いて現代のポップスをならすという相容れないサウンドを追求したからこそのものなのではないでしょうか。


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