『リズム&ブルースの死』
- 杉山慧
- 2018年12月23日
- 読了時間: 3分
自分の読んだ本を頭の整理がてら紹介しようと思います。

第一回目の今回は、ネルソン・ジョージ著『リズム&ブルースの死』(1988年、翻訳版は1990年)。R&B、ヒップホップのライターとして著名なネルソン・ジョージの代表作の一冊です。他には、『ヒップホップ・アメリカ』『モータウン・ミュージック』『スリラー マイケル・ジャクソンがポップ・ミュージックを変えた瞬間』『JB論 ジェイムス・ブラウン闘論集1959-2007』などが翻訳されています。
この本は、1900年から1987年までのブラックカルチャー・コミュニティの文化史を音楽中心に取り上げています。特に、列車で働いていたプルマン・ポーターと呼ばれる人からラジオまでその時代の情報伝達の手段に着眼点の重き、リズム&ブルースからヒップホップへと変容していく過程を重点的に綴っています。
特に興味深かったのは以下の4点です。
①ロックンロールは元々ブラックミュージックの中で“ファック”の婉曲表現として使われていたが、白人DJのアラン・フリードが差別の厳しい時代にR&Bという言葉を使わずにロックンロールと新たなレッテルを貼り直して放送したことから始まったことなど、日本でJ-POPが出来上がっていく過程と同じようなことが、当時から起こっていたことは面白いと思った。
②後にホイットニー・ヒューストンやマイルス・デイヴィス、アース・ウインド・アンド・ファイア、サンタナなど数々の大物のデビューや復活を支えてきたクライヴ・デイヴィス率いるCBSがブラックミュージックに力を入れるきっかけを語っている。それはハーバード大学のビジネススクールが71年に作成した“ハーバード・リポート”という調査書であったこと、そしてそのレポートの注意点を無視したことがクライヴ・デイヴィスが一度CBSから追い出される伏線になっていたことなどとても興味深い事実が書かれている。
③ディスコ排斥運動が1979年シカゴのホワイトソックスの本拠地の試合でラジオ放送局WLUPのDJスティーブ・ダールの呼びかけで行われたディスコ・レコードの焼き討ち。この背後にあった黒人とLGBTQへの差別用語として使われていったことが書かれていた。これはロックンロールが白人の音楽を示すようになったということとレッテルという意味では同じであり、どちらにも根本的に差別の口実として言葉によるレッテル貼りが行われたという歴史的事実を浮き彫りにしている。
④ヒップホップへと変遷していく過程。これは、プリンスやライオネル・リッチー、そしてマイケル・ジャクソンと人種(マイノリティ/ブラックミュージック)の枠を越え大衆/クロスオーバー(マジョリティ/白人)に受け入れられビッグヒットを生んでいった背景と、ソウルやファンク、R&Bに陰りが見えてきたことと骨抜きにされていったことを構造面から捉えている所が興味深かった。2018年の視点から見ると、文脈の消失(共通言語があまりなくなったことで、どこの視点から見るかが重要のような気がする。)によりジャンルとエスニシティの関連が88年と比べると希薄になっているので、ジャンル議論の前提としているものが、現在と当時ではだいぶ状況が違うのだろうなと思った。
この本のスゴイ所は、構造的に捉えることでメディア史として面白いだけでなく、具体的な楽曲についても触れられており文化史としても一級品であることです。プレイリストを作成したのですが、合計で285曲に上りました。下記に貼り付けておくので、ぜひ聴いてみてください。20時間を超える長尺プレイリストですが…笑
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